最近の研究1

 

 重い電子系物質の研究は、4f-1電子系のCe化合物においては数多くの種類の物質について進んでいます。たとえば、重い電子系超伝導体はCe化合物では圧力誘起の物も含めれば40種類ほど報告されています。

 4f-正孔系のYb化合物においても重い電子状態の発現が期待されますが、Ce化合物ほどには研究が進んでいません。その理由として、Ybの蒸気圧が高い(低い温度で蒸発してしまう)ために、アーク炉などの広い空間での物質合成ができないということがあげられます。このためにYb化合物の物質探査の速さはCe化合物に比べると遅いと言えます。また、Ybの方がCeに比べると波動関数の広がりが小さいため、伝導電子と4f電子の混成が生じる距離の許容範囲が狭い、ということもあげられます。そのため、物質を合成してもYbが+2価の通常金属になってしまうことがよくあります。

 我々は、以下にあげるフラックス法の利点を活かしたYb化合物の結晶育成を進めて、新物質探査を行っています。

(1)石英アンプル内の狭い空間で結晶育成する方法であること

(2)低融点フラックスにより、結晶育成温度を下げられること

以上の2点から、Ybのような高い蒸気圧の材料でも蒸発を防いで原材料として用いることができます。また、目的物質の組成をフラックスとして用いて、不純物の混入を抑制する(自己フラックス法)ことも利点としてあげられます。


 最近、物質探査を以下の単純な指針で行い、 幸運にも新物質YbNi3X9(X=Al, Ga)の発見に至りました

(1)物質に広がりを持たせるため、3d遷移金属との三元系物質を探す

(2)CeIn3との構造の類似に注目してYbAl3近傍探す

(3)Ybに対して多配位な物質を狙う


 YbNi3X9(X=Al, Ga)の研究上の利点としては、非常にきれいな単結晶を育成することができ、参照物質のLuNi3X9(X=Al, Ga)も存在することを上げることができます。

 また、YbNi3Al9が秩序温度3.4Kの重い電子系反強磁性体(ヘリカル反強磁性体)であるのに対し、YbNi3Ga9Alを同族のGaで置き換えているにもかかわらず、近藤温度が約600Kの価数揺動物質に変貌します。つまり、同じ結晶構造を保ちながら、近藤温度が2桁も変化しています。


 現在、加圧や元素置換を用いて、YbNi3X9(X=Al, Ga)の基底状態を調節し、重い電子系超伝導が発現しないかどうか研究を進めています。

左の図は、Yb-Ni-Al三元状態図。

ピンクの円の領域で物質を探査した。

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